第三章

相変わらず孤独な高校生活を送っていた浦田。
そこに舞い降りてきた一筋の光。


ニッポン放送知ってる?24時。


これは浦田の投稿者人生を語る上で欠くことのできないラジオ番組だ。
高校1年生の冬。
二階の部屋で『さんま御殿』を見ていたときのことだった。
ニッポン放送のスタッフさんから一本の電話が掛かったきた。
『リスナージングル(声でのメッセージ出演)に出ないか?』と。
その時、浦田は突然の出来事に戸惑いながらも『はい!』と即答をした。
電話を切った後も信じられない気持ちと溢れんばかりの嬉しさでいっぱいだった。
『憧れのあの番組にジングル出演できる』と。
メッセージの録音はその日の内に行われた。
後はOAを待つだけだ。
浦田は舞い上がる気持ちを押さえ切れず、
次の日、学校が終わると直ぐさま自転車を走らせ、
最寄りの書店に行った。
前々から採用されたら買おうと心に決めていた
くりぃむしちゅーの本2冊と『知ってる?24時。』の広告が裏表紙にデカデカと掲載されているラジオ番組表を手に入れる為だ。
それらを買い占め、帰路に着くと、もう夢中になって読み込んだ。
『これであの上田さんにツッコんでもらえる』
芸能人ですら見たこともない鳥取県出身の浦田にとって、
それはまさに夢のような話だった。

そして迎えたOAの日。
高鳴る胸の鼓動。
何を思ったか、その日、浦田は風呂に2度も入った。
まるで行為に及ぶ前のひと時のように体もしっかり隅々まで洗い、シャワーで洗い流した。
準備は万端だ。
ついに24時になり、いつも通りナレーターのおっさんの声と共に『知ってる?24時。』が始まった。
ついにその時が来る。
そして、その日の最初のCM明けにて、浦田のジングルが流れた。


『私立○○高校1年の寝ても覚めても本名浦田良介だぁ!』


妙に張り切った自分の声がラジオから聞こえたのが少し恥かしかった。
よくある運動会の対抗リレーでやけに張り切って足をくじいちゃうおっさんのそれと変わらないぐらい。
それでも平凡な高校生活でさえ送れていなかった浦田にとって、
はかない夢の一つが叶った瞬間だった。
きちんと上田さんにラジオネームにもネタの内容にもツッコんでもらった。
わずか30秒程の短くも長い長い夢の続きが間違いなくそこに流れていた。


浦田良介、高校中退考え中。


その瞬間、浦田の長らく止まっていた心の時計の針が少しづつ、そして不器用に、小さな音を立てながら動き出したのだった。