オレ≒俺

序章
−なぜオレは、こんな平凡な人生を送らねばならんのだ?−
オレは、常にそういう思いを胸に抱き、疑問を感じながら生きていた。
オレは、そこら辺のつまんないフツーのヤツらとは違う。オレは選ばれし人間で、他の人とは違う何かを持っている。
なのに、なぜオレはこんな平凡な人生を送ってんだ?いや、今の状況は〝平凡〟とも言い難いかもしれない。オレは、人並みの人生でさえも歩めていない気がしていた。
〝オレは一体何のために生きているのだ?〟
幸久は孤独であった。
クラスではいつも一人ぼっちで、一日中誰とも口を利かず、昼休みは一人でこそこそと弁当を食べ、授業合間の休み時間も寝たふりや読書をして過ごす物静かな男であったのだ。
その上、終礼が終わると同時にそそくさと学校をあとにする属に言う〝帰宅部〟であったため、ほとんど人と接する機会がなかった。
そんな幸久の唯一の生き甲斐は、深夜ラジオへのハガキ投稿であり、週に計30〜50枚程のハガキを複数のラジオ番組に送り、毎週数枚のネタハガキが採用される有名且つ優秀なハガキ職人であった。
そんな幸久は、今日も学校から帰宅すると、すぐに自分の部屋に篭り、愛用の万年筆を片手に官製ハガキとにらめっこをしていた。
「ラジオネーム、愛しのチナッティー
使い慣れたラジオネームだ。
由来は、恥ずかしいから聞かないでほしい。
マジで。
なぜならば、中学時代の初恋の相手の愛称からそのまま取っただけだからだ。
って、ぶっちゃけちゃったよ、、、。
ま、いっか。つまらん隠し事するのも面倒くせぇし。
幸久は、軽く笑みを浮かべながら、カバンからネタ帳を取り出し、今日の数学の授業中に授業そっちのけで考えた珠玉のネタを慣れた手つきで軽くサラサラとハガキに書き写した。
我ながらいい出来だ。
幸久は、ハガキを一枚書き終えると、椅子の背もたれにどっかりともたれ腕を組み、軽く目を閉じた。
〝オレの人生は…果たしてこれでいいのだろうか?こんなハガキを書くだけの毎日で、果たして楽しいといえるだろうか?オレには、他にもやるべきことがあるんじゃないのか?〟
このような思いに陥るのは、何もハガキを書いているときだけではない。もう四六時中なのだ。
幸久には、勝手な思いがあった。
〝オレは、メディアに出るべき人間〟
自信過剰ともとれるこの思いは、何かと幸久の心を惑わせていた。
この思いが頭を駆け巡る度に、人並みの人生でさえも送れていない自分に悲観し、何とも言えない感情に陥っていたのだ。「自分はメディアに出るべき人間、、、…なのに、なぜメディアに出れていない?メディアに出るべき人間が、なぜメディアに出れないんだ!?おかしい、絶対おかしい!こんな矛盾、あってもいいのか…。」
よくもまぁ、ハガキ投稿以外何もしていない引きこもり野郎がこんなこと言えるな!と思う方も多いかと思われるけど、そこはまだまだ未熟な16歳の高校2年生。
未熟さゆえの思想であるから、まぁもうちょっと温かい目で見守ってほしい。
人生の本当の厳しさにぶち当たるまで。
そもそも、幸久がなぜこのような思いに陥っているのかというと、幸久自身の「自分は特別な存在だ」という大いなる勘違いが原因であった。

−二章に続く−