眺望

私が寝ている間にも、
ケータイをいじっている間にも、
のんびり登校している間にも、
世間は動いている。
満員電車に揺られ、
渋谷という街を横行し、
大學に行き着く。
絶え間なく動く時間は私を焦らす。
生きるとは何だろう?
これは私にとって永遠に解決しない題目かもしれない。
希望の光が見出だせない今だからこそ考える余地がある。
それは言わなくてもわかってる。
わかってはいても、
臆病な私は世間から目を背け、
現実から逃げ続けている。
逃げて逃げてまた逃げて、
遠くのまた遠くの人気のない山奥へと逃げ込む。
勿論、誰も追いかけてきやしない。
自然に恵まれた山の澄んだ空気はおいしく、居心地がいい。
このまま死ぬまでずっといたいぐらいだ。
しかしそこは深山。
籠っていては何も始まらない。
あるとき、そんな自分にグッバイしたくてふと山を下りてみた。
山を下り、森を抜けると、そこには今まで私が見たことのないような情景が広がっていた。
一見華やかで、またどこか物寂しさも垣間見れる魅力的な街が。
恐怖感に煽られ一瞬足がすくんだ。
それでも精一杯の力を込めて
恐る恐る一歩ずつ一歩ずつ歩いてみる。
慣れない人ごみにもみくちゃにされながら行き着いた
カフェテリアの前のガラス戸にふと目をやる。
そこにはボサボサの髪に無精髭の何やら怪しげな男が映っていた。
なんともみっともない己の姿。
そりゃ1ヶ月も山に籠っていたんだ。
無理もない。
自分の余りにも滑稽な姿にはぁっと溜め息を漏らしながらもまた一歩進む。
今度は美容院が見えた。
これはチャンスだ。
早速、店に入り、身なりを整え、
再び街に繰り出す。
また一歩進む。
今度は腹が減った。
向こう側には飲食店が見える。
よし、食べに行こう。
うん…なるほど、これが生きるってことか。
端から見ればほんの些細な事かもしれないけど、
これまで閉ざされていた世界に居た私にとっては
わずかながらの達成感があり、心地良い。
不器用な私にもきっとできることがあるはず。
私はそう信じることができる世界に足を踏み入れたんだ。
だから、生きよう。
この世界で。
ずっと。ずっと。