無題

風がなびく。
哀愁に満ちた冷たい風が、
俺の心を打ちつける。


さみぃ…


ふとケータイを見る。
次の電車までまだ15分もある。


暇だ。


ひとまず乗り場のベンチに移動してゆっくりと腰を下ろす。
吐く息が白い。
かじかんだ手をさすっていると
突然にケータイが鳴った。
友達の長坂からのメールだった。


「今何してる?」



「Re:電車待ってる」



こいつはメールの返事の有無に関しては敏感なやつだ。
スルーすると後々「なんで返さなかったんだよ〜?」などとうだうだ言ってくる。
そーいうのにいちいち応対するのがめんどうだから、
一応ながら返しておく。
そう思いながらメールを打っていると
前から何かの匂いがした。
ふと見上げてみると、
短髪で背丈がやや高めの制服を着た女の子が
俺の目の前に背を向けて立っていた。
「なんだ香水の匂いか」とさほど気に止めずに
再びケータイに目を落とした。
でもやっぱり気になる。
年頃の女の子が目の前に立たれたら
嫌でも視線がやましい所にいってしまう。
紺色の靴下に、スラッとした脚、
少し刺激的なスカート、腰辺りのくびれ
という具合に少しずつ視線を上げていく。

そして俺が彼女の後頭部付近へと視線を向けようとしたそのとき、
突然彼女がくるっと俺の方を向いた。


はっ


目が合った。
瞬発的に顔を背ける。


か、かわいい。
俺好みの控えめで清楚そうなコ。


もう一度だけ…


彼女に気付かれないように
そっと目をやってみる。

かわいいなぁ…


自ずと笑みがこぼれる。
ささやかに感じる幸せ。
彼女を見ていると、
心なしか少し朗らかな気分になった。


間もなく電車が到着する。


ゆっくりとケータイを閉じて、バッグを肩にかける。


……生きなくっちゃな。
死ぬなんて、もったいなすぎるよな…。





冷え切った俺の体に差し込んだ一筋の光。
それはあまりにも眩しく、愛しいものだった。